仲間との別れを乗り越えよう – 連載「プロジェクトとはRPGである」ep.9

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前回の記事で、勇者はライバルの様子を見て大きな動揺を受けました。勇者自身はどうにか不安から立ち直りましたが、周囲のノイズで動揺するのはリーダーだけではありません。チームのメンバーもまた世の中の流れや将来の不安と期待、損得などを考えながら日々活動しています。その中で、時に「別れの瞬間」が訪れることもあります。

 

実際のプロジェクトやスタートアップでも、メンバーが離れていくことはあります。特に少ない人数で運営するチームではメンバーの離脱は非常に大きな出来事で、それによって崩壊するプロジェクトやスタートアップは非常に多いのです。

ネットでもたまにプロジェクトやスタートアップの揉め事が出て人々を騒がせますし、表には出てこなくても飲み会などで「あそこはうまく行っていない」という話はすぐに交わされます。また、成功しているスタートアップの創業秘話などを読んでいても、仲間割れの危機を乗り越えたという話は頻繁に出てきます。

 

メンバーの離脱は単に「仕事をする人がいなくなる」という労働力の問題だけでなく、その人が持っていた独自のノウハウや専門知識、そして人間的なキャラクターが失われてしまうということで、チームの総合的な競争力やモチベーションに大きなダメージを与えます。特に「去られる側」のダメージは大きく、心に傷を抱えて疑心暗鬼になってしまうマネージャーや経営者はたくさんいます。

しかし、人と人が関係を作る上で「別れ」というのは付き物です。仮に一生プロジェクトや事業が続いたとしても、いつかは死が訪れるからです。

訪れてしまう別れをどうやって乗り越えるか。今回のテーマは「別れを乗り越えよう」です。

 

目次

  • なぜ別れが訪れるのか
  • 人間関係はいつも「50:50」
  • 自分と相手の幸せを考える

 

なぜ別れが訪れるのか

みんなで集まってプロジェクトやスタートアップをやるのは未来を作るためです。そのために、不安定な状況で歯を食いしばり、地面を踏みしめて日々みんなで支え合って前に進むのです。そんな中で、なぜ別れが訪れてしまうのか。

それは、「目指す未来」のイメージが食い違ってしまうからです。

 

例えばスタートアップをやるために4人が集まったとして、実際に「何を得たいと思っているか」が人によって大きく異なっていることがあります。みんな表向きは「ある製品を作って大きなビジネスを作る」というところで一致していても、実際のところAさんはモノづくりが好き、Bさんは新しい挑戦が好き、Cさんはお金が大好き、Dさんは何となくファッション的にスタートアップがカッコいいと思っている、ということはよくあるのです。

価値観が人によって違うのは悪いことではありませんし、その価値観の違いがうまく結びついていれば「バランス感覚」となって、正しい意思決定に繋がることもあります。しかし、日々訪れる困難の中で、この価値観の違いをまとめていくのは実はかなり難しいことです。

よくスタートアップやプロジェクトでは「初期チームはお互いをよく知るメンバーとやるべき」や「組織の文化やミッション、ビジョンを作っていくことが大事だ」と言われますが、それは決してタテマエや綺麗事ではなく、「目指すところ」を常に確認し合うことで、メンバー同士の人格の理解を前提として価値観のズレを小さくして意識をまとめていくために必要なことなのです。

 

 

また、価値観の違い以外にも、利害関係もちゃんとまとめていく必要があります。

問題解決のスキルやストレス耐性には個人差があるため、過酷なプロジェクトやスタートアップで人が離れてしまうのはある意味で仕方がない部分がありますが、実は組織の大規模な内部崩壊はそうした苦しい時期を乗り越えた後の「成功」の時期に訪れることも多いのです。

よくあるのは、スタートアップで苦しい時期を乗り越えて資金調達や製品の成功を収め、上場や企業売却などで多額のお金を組織が手にした時に、その利益の分配で人の心が離れてしまうケースです。経営陣や昔から事業に携わっている人は株で大きな利益を手にしているのに、後から入ってきた人は安くて上がらない給料でそうした人々にこき使われていて組織の士気が全く上がらない、という状況はよく見かけます。

特にスタートアップは苦しい時期が長いので、創業メンバーが大きなお金を手にすることで気持ち的に「上がって」しまって、めんどくさいことは見て見ぬ振りをして全て現場に丸投げ、みたいな状況になることも多いのです。これでは現場の人達は付いて来ず、組織の内部崩壊が起きて事業も停滞あるいは衰退してしまうことになってしまいます。

 

ここで大事なのは、組織が成長する前から株による利益と報酬とのバランスを考えておくこと、そして経済的な成功を手に入れた後のビジョンをちゃんと作っておくことです。

絵に描いた餅の話をするようで気が引けるかもしれませんが、スタートアップの場合は事業を急成長させて大きな利益を手にするために始めるので、真剣にやるならしっかり考えておく必要があります(特に株の分配については企業が大きくなってからは後戻りできないという特性があります)。

 

また、開発プロジェクトなどでも、長期間続いている場合は最初からいるメンバーと途中から参加したメンバーの間で認識や気持ちがズレていて、リーダーがそれを埋める努力をしないばかりにチームとして協力し合えないということがよくあります。

リーダーはプロジェクト参加時のブリーフィング(経緯や目的の説明)や仕事のアサイン、普段のコミュニケーションの際にそうしたズレに配慮することで、メンバー全員がプロジェクトの経験によって個人の成長や社内的な評価、報酬に繋がるようにすることが重要です。そうした取り組みを行うことがチームのモチベーションを作り、最終的にプロジェクトの成功に繋がるのです(何でも上から仕事を押し付けるタイプのリーダーが上手くいかないのはこうしたところにも理由があります)。

 

人間関係はいつも「50:50」

とはいえ、こうした点に十分配慮していても、突然別れが訪れることがあります。

ネットなどでスタートアップ解散時の恨み言が出ていたり、プロジェクトの離脱や会社の辞め際にすごく揉めたりするのは、当事者に被害者意識があるからです。「振る側」のメンバーは次の活躍の場を見つけて出て行くことがほとんどなので、よほど大きな精神的・肉体的実害を受けていなければ後に引きずるような被害者意識を持つことは少ないですが、「振られる側」の経営者は取り乱してパワハラや給与の不払いなど違法なレベルの嫌がらせをしてしまうケースがあります(揉め事として表には出なくても世の中には非常に多いです)。

なぜこうなってしまうかというと、人は突然思い描いていた「将来像」が崩れてしまうと、誰かを責めたくなるからです。

特に経営者はキーパーソンに辞められてしまうと、大幅な事業計画の見直しを迫られ、下手をすると事業そのものが危機的な状況になってしまうので、その責任を自分ではなく辞めた人に押し付けたくなってしまうのです。

 

しかし、落ち着いて考えてみれば、現代の日本は労働者にも経営者にも選択の自由があり、また重要な人生選択を行って自分の人生をデザインすることは誰にとっても必要なことです。そうした中で作られる人間関係は、一回きりの出会い頭のアクシデントでもない限り、当事者に合意があるからこそ続くのです。

例えば、ブラック企業の問題でよく経営者がメディアやネットで批判されますが、そうしたビジネスやそれが成立する環境に加担しているのは労働者や消費者、監督省庁も同じなので、関係者には誰にも等しく責任があります。ブラックなビジネスを手伝ったり利益を提供する人が存在せず、またそこに厳然とした法的な規制があれば、そもそもそんな事業は成立しないからです。

 

プロジェクトやスタートアップのような小さな組織でもそれは同じで、関係者にはポジションに関係なく、「合意を形成した」という責任と義務がお互いにあるのです。

期待していた関係がうまく行かなかったら、お互いが合格点を出せる関係を作れなかったと思って、全てを相手か自分のせいにするのではなく、半分の責任についてちゃんと反省することが大事です(これは仕事だけでなく、恋愛結婚などでも同じですね)。

 

自分と相手の幸せを考える

とはいえ、人間は感情の生き物でもあるので、辛い別れを経験すると感情的に大きく後に引きずってしまうこともあるでしょう。

しばらくは被害者意識やその裏返しとしての恨みつらみを感情として抱えてしまうのはしょうがないことですが、それを悪口として言葉に出したり(ソーシャルメディアやブログに書いてしまうのは最悪です)、揉め事として争うのは決して良いこととは言えません。既に終わってしまった関係から得られるものはありませんし、さらに傷口を広げてしまうことに繋がるからです。

「振った側」の人が古巣の悪口を公けに言えばどこに行っても信用されませんし、また「振られた側」である経営者やプロジェクトのリーダーが辞めた人を悪し様に罵ったりパワハラ・違法まがいの対応をすると、そうした評判はすぐに業界や社内を駆け回り、優れた人材を確保できなくなってしまいます。

 

別れの際に大事なのは、双方でちゃんとコミュニケーションを取って気持ちを整理することですが、相手が向き合うことから逃げてしまってそれができない場合は、ただひたすら感情が落ち着くのを待って、それが落ち着いてきたら相手の将来の幸せを願うようにするといいでしょう。

 

最終的にうまくいかなかったとしても、一時は未来を一緒に作ろうと協力し合った仲ですし、その関係から得られたものも大きかったはずです。「自分とはうまくいかなかったけど、相手は別の選択をしたからこそ幸せになれるのだ」と考えるのです。

 

リーダーに大きな器が求められるのは、人の希望と期待を集めて前に進みつつ、その中で訪れる別れにも対応しなければならないからです。これは大変しんどいことではありますが、こうした時にこそリーダーの真価が問われます。

チームの期待をビジョンやミッションとしてまとめつつ、利益分配にも配慮して、別れが訪れても感情に囚われず冷静に対処することがとても重要なポイントです。

 

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Masayoshi Hashimoto

「フロントライン通信」編集長。業務経験は15年を超え、メディアサイトから数千万人規模の会員システムまで、10社で80件以上のプロジェクトのマネジメントを実施。2011年にスタートアップを立ち上げ、多くの人がプロジェクトをより成功できるためのツール「マンモスプロジェクト(Mammoth Project)」を開発。世界中の現場で戦うチームを応援することを人生の使命とする。

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