「何ができないか」よりも「何ができるか」を考える – 映画「オデッセイ」レビュー(ネタバレ無し)

martian

 

映画「オデッセイ」を観てきました。元々リアル志向のSF映画がすごく好きなので、ゼロ・グラビティやインターステラーなど、近年は当たりが多くて嬉しいなぁと思っています。

 

さて、プロジェクトマネジメントやリーダーシップの難しさというのは、話が抽象的になりやすく、イメージしにくいというところにあります。

日本ではリーダーというと「カリスマ」という個人の力量や持って生まれた才能でどうにかするものだという考え方が未だに根強いですが、実際にはプロジェクトマネジメントやリーダーシップの大半は「特定の状況で正しい行動を取る」というメソッド(方法論)で理解し、修得することが可能です。

アメリカでは社会的に軍事や宇宙開発、IT業界といったプロジェクト主体の働き方が求められる分野が日本と比べて大きく進んでいるところから、そうしたメソッド中心の考え方がかなり主流になってきており、ドラマや映画でもそうした考え方をストーリーに取り入れた作品を結構目にすることができます。

「本当はリーダーシップやプロジェクトマネジメントの技術を駆使して仕事をしたいんだけど、会社から言われるのはルーチンワークだけ」とか、「いろいろ学びたいんだけど実際にそれらができる人が社内にいない」など、日々の仕事の中でプロジェクトマネジメントやリーダーシップを学ぶのはなかなか難しいところですが、それらを題材にした良い作品を見ることで十分エッセンスを学ぶことができるのです。

このブログではそうした作品を紹介していきたいと思っていて、その第一弾としてちょうどいいタイミングで触れたのが映画「オデッセイ」というわけでした。

 

さて、前置きが長くなりましたが、オデッセイでリーダーシップやプロジェクトマネジメントについて学べるのはこの辺りです(基本的に映画紹介のあらすじ以上のネタバレはないように書いています)。

 

目次

  • 「何ができないか」よりも「何ができるか」を考える
  • プロジェクトの選択肢と責任の取り方
  • 「リスクを取る人を周りがどう見るか」がリーダーを育てる環境を作る

 

「何ができないか」よりも「何ができるか」を考える

映画の紹介にもある通り、ストーリーとしてはマット・デイモン演じる主人公が火星にたった一人で取り残される、というお話です。火星は地球と違ってまさに不毛の土地なので、普通に考えて一人で生き残るのはほとんど不可能なことのように思えます。

仮に食料や設備が整っていても、普通の感覚では「惑星にたった一人」というだけで参ってしまう人が多いのではないかと思いますが、映画では「食糧も水もごくわずか」という危機的状況の中で、主人公はタフなメンタルと知性、ユーモアで乗り切っていきます。

そこはこの映画のひとつの醍醐味なので、ぜひ劇場で観ていただきたいところなのですが、この辺りの「困難な状況でのスタンスの重要性」はサイト制作やシステム開発などのプロジェクトに通じるところがあります。

 

プロジェクトを進める際に、困難や「できないこと」は山ほど出てきます。「ダメだこりゃ」というシチュエーションも、ちょっと複雑なプロジェクトをやっていると度々出てくるものです。

その時に「できないこと」に意識をフォーカスすると、その時点でチーム全体がグタグダになって、とても成功は望めない状態になってしまいます。「悲観」というのは伝染してしまうものなのです。

宇宙開発ほどでなくても、プロジェクトというのは大きな挑戦です。どんなことが起こっても、「できないこと」よりも「できること」にフォーカスをして努力することがとても大事なのです。

 

プロジェクトの選択肢と責任のとり方

映画「オデッセイ」で特徴的なのは、実際に宇宙に出ている主人公や仲間のクルー以外にも、地球で彼ら彼女らをバックアップする NASA の人々にもフォーカスが当たっているという点です。

このあたりはゼロ・グラビティやインターステラーとは異なる点でしょう。

 

火星でひとりぼっちの主人公を救うために地球から何ができるか。これをとことん考えて突き詰めていく NASA の人々の思考や迷い、決断の描写も実に素晴らしいものがあります。

予測できない物事が起こって、それがプロジェクト全体に影響を及ぼしそうな時、対策としてどういう選択肢があって、それぞれの選択肢にはどんなリスクがあり、その選択の結果の責任を誰が持つべきなのか。そうしたことが、非常によく描かれているのです。

普段仕事をしていると、「プロジェクトで難しい判断をしたときにその失敗を現場に背負わせる」というようなケースがよくありますが、それがいかに間違っているか、ということが実感できます(笑)。

 

ただ、リスクがあって何が起こるか分からない状況で、何が「正しい判断なのか」というのはなかなか難しい話でもあり、結局のところは「何を重視するか」という価値観による部分があります。オデッセイでは、それぞれの登場人物が異なる価値観を持っているところがよく描かれていて(つまりある意味では全員が正解を持っている)、それがまた見どころなのです。

 

「リスクを取る人を周りがどう見るか」がリーダーを育てる環境を作る

上で書いた NASA の人達の努力の背景には、実は「リスクを冒して頑張っている主人公を何としても連れ帰るべきだ」という文化的な考え方があります。

オデッセイでは、最初から最後まで常に様々な危機が主人公を襲い続けるのですが、観ていても不思議と暗い気持ちにはなりません。上に書いた主人公のメンタルの強さと、映画上の演出、常に主人公を支え続ける登場人物たちが、希望をつなぐストーリーを紡いでいるのです。そして、そのベースにあるのが、上に書いた考え方です。

 

これに関連する事柄ですごく興味深いなと思ったのは、この映画の日米のキャッチコピーの違いです。

  • アメリカのキャッチコピー: “Bring him home.” (彼を故郷に連れ帰れ)
  • 日本のキャッチコピー:「70億人が彼の帰りを待っている」

 

この2つは非常に対照的だとは思いませんか?

最も大きな違いは「リスクを取って孤立している人をどう見るか」という姿勢の違いです。アメリカのキャッチコピーには「リスクを取って頑張っている人はできるだけサポートするべきだ」という積極的な姿勢が表れていて、日本のほうはただ待っているだけです(笑)。

 

「単純にキャッチコピーを作った人の感性の違いじゃん」と言うこともできるのですが、この感覚の違いというのは実際にプロジェクトやスタートアップをやっている人には実感できることではないでしょうか。

日本で新規プロジェクトやスタートアップをやっていると、物珍しさや好奇心、下心で話をしにくる人は多いものの、こちらが実際に困っていることやサポートして欲しいことには無関心であったり、リスクを取って新しいビジネスをやろうとする人に対する効果的なサポートを提供する組織的/社会的な仕組みもほとんど整っていなかったりします。

例えば、ヨーロッパやアメリカの主要都市では地方自治体に「スタートアップ起業家向け相談窓口」があったり、起業家をサポートしてくれるコミュニティのマップがネット上にあるので、「明日からスタートアップ起業家になるぞ!」と思ったら、とりあえず迷うことはありません。

しかし、日本では安倍首相が「スタートアップを支援するぞ」と言っていても、東京ですらそうした仕組みがほとんど整っていない状況なのです。

実際、日本と欧米でスタートアップをやったことがある人に話を聞いてみると、「とにかく日本でスタートアップをやるのは孤独だった」と語っていました。

 

また、新規事業プロジェクトを立ち上げたとしても、困ったことを相談できるプロジェクト経験が豊富な人はおそらく大企業でも少ないでしょうし、基本的なマインドとして「自分でやると言ったことは自分でどうにかしろ」という自己責任論が日本には根強いので、なかなか効果的にサポートを得ることができません。

「リスクを取って頑張る人を支えよう」という考え方が強いか、それをただ周りで見ているだけという姿勢の人が多いか。そのどちらの環境なのかで、成功するプロジェクトやスタートアップ、頑張れるリーダーの数は全く変わるでしょう。

 

映画「オデッセイ」は、大きな目標を達成するためにリスクを取るということはどういうことかそういう人を増やして世の中を豊かにするには何が必要か、ということを考えさせられるという意味で、すごくいい映画です。

まぁ何といっても巨匠リドリー・スコット監督の映画なので、完成度も非常に高く、「最近仕事で忙しくて映画に行ってないな〜」という人にも、いやそういう人にこそオススメの映画です。

小難しい話は抜きにしても、シンプルに感動できますよ。

 

Masayoshi Hashimoto

「フロントライン通信」編集長。業務経験は15年を超え、メディアサイトから数千万人規模の会員システムまで、10社で80件以上のプロジェクトのマネジメントを実施。2011年にスタートアップを立ち上げ、多くの人がプロジェクトをより成功できるためのツール「マンモスプロジェクト(Mammoth Project)」を開発。世界中の現場で戦うチームを応援することを人生の使命とする。

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