「プロとしてのコミュニケーション」とは何か(2) – 相手が生きている世界を知る

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前回の記事では「プロとしてのコミュニケーション技術」として、まず相手がどんな価値観を持っているかを考えながら関係を作っていきましょう、という話をしました。

次は、「相手がどんな世界に生きているのか」を知ろう、というお話です。

 

「相手がどんな世界に生きているのか」という表現は、ちょっと意外な感じかもしれません。

 

私たちはみんながひとつの現実に生きているという前提で生活しているからです。

「一人一人が別の世界に生きています」と聞くと、驚く人も多いでしょう。

 

普段、ほとんどの人が自分の世界観を疑わずに生きていますが(イチイチ自分の世界観を疑っていては生活ができなくなってしまいます)、みんな同じ体験を共有して同じ世界で生きているようでいて、実際のところは違うのです。

「世界がどう構成されているのか」を科学的に研究している量子力学や宇宙論の世界でさえ、まだ「正解」は存在しません。

 

そうした研究分野では、例えば「我々は幅と高さと奥行きで表現される3次元しか知覚できないが、実は10次元ぐらいまでありそうだ」という話や、「物質を構成している素粒子のことはようやく分かってきたが、実はどうやっても計測できそうにない未知の物質未知のエネルギーが、既に分かっている物質やエネルギーの5倍ぐらいありそうだ」という話があったりします。

 

人類は19世紀以降、大きな科学技術分野の躍進があり、またインターネットで調べれば様々なことが分かるため、私達は大抵のことは理解している気になっていますが、実際はまだ世界のことはほとんど何も知らないに等しいのです(インターネットで分かることは既に「誰かが知っていること」だけで、未知のことはわからないのです)。

 

人類は炭素の塊から数十億年の時間をかけて、生物として進化してきました。

その進化のメカニズムの中で、私たちの知覚は「生存」という目的のために少しずつ形作られてきました。つまり、人間が持っている知覚というのは「世界を正しく知るため」ではなく、「生きるため」の極めて限られた性能のものなのです。

目が感じることのできる可視光線は電磁波のうち、ごく限られた範囲のものにしか過ぎませんし、人間が感じられる音の幅も非常に限られています。嗅覚は犬などの動物のほうが優れているということは、みなさんもよくご存知でしょう。

さらに、その知覚は個人によっても大きな差があります。

 

視覚で物事を捉えるのが得意な人、耳が良く色んな音を聞き分けられる人、匂いに敏感な人、味覚が優れている人、触覚が鋭い人など、みんな同じ状況に居ても、捉えられる物事は違います。

日常的にはこうした個人の知覚の違いは理解されていますが、コミュニケーションをする際にも、こうした違いを念頭に置いておくことが「良いコミュニケーション」に繋がるのです。

 

では、どうすれば知覚の違いを理解してコミュニケーションに活かせるのか。

そのコツをお伝えしましょう。

 

2. どの感性を使っているか(知覚)

人は物事を把握するために、五感(視覚、聴覚、触覚、味覚、嗅覚)を使います。

味覚と嗅覚を使う仕事は食品産業や飲食業など特定の業界に限られますが、ほとんどの産業で人は視覚・聴覚・触覚(身体感覚)で仕事をしています

そこで、コミュニケーションの際には「相手がどの知覚を主に使うか」を把握していることがとても重要になるのです。

 

相手がどのような知覚をよく使っているかは、相手自身の言葉で判断することができます。

視覚を主に使う人は、「見る」とか「ハッキリしている」とか「見通しがいい」などの言葉を多く使い、聴覚を主に使う人は、「聞こえる」や「思う」や「リズムが合う」などの言葉を多く使います。身体感覚を主に使う人は、「感じる」や「軽い/重い」、「気になる」などの言葉を多く使います(このあたりの詳細は NLP という分野のVAKタイプ分けで研究されています)。

 

もちろんほとんどの人が知覚を複数混ぜて使っていますので、どれか一つだけ、ということはありません。相手の強い知覚に合わせて情報を提供することで、コミュニケーションがよりスムースになるのです。

 

例えば、新しい情報システムを作る際には、それを「どう作るか」はもちろん非常に重要なテーマですが、それ以外にも、「そのシステムを導入した場合に業務がどう変わるか」や「他のシステムとの連携はどうなるか」などの before/after を関係者に共有することがとても重要です

これが出来ていないと、せっかくシステムができたのに使い物にならなかった、むしろ無用なトラブルを発生させてしまった、という結果になってしまいます。

そして、こうした「まだ存在しないもの」を作ったり、作った後のことを考えるときに、人が理解できる・理解しやすい情報で伝えるというのはとても重要なことなのです。

 

「このシステムはこんなことができます」や「ここがこう変わります」ということを伝えるときに、聴覚を主に使う人には文字情報だけで伝わることもありますが、視覚を主に使う人には図でそのことを表現してあげるほうがよいでしょう。身体感覚を重視する人は、ミーティングで身体を使って表現してあげるといいかもしれません。

人は欠けている情報を自分の想像で補ってしまう傾向があるので、システムのリリース直前になって、「えっ、それが正しい情報だとは思ってなかった!」ということがよく起こります(プロジェクトの「炎上」の火種は大抵こうした認識のズレです)。

例えば、要件定義にシステムの構成図をイメージで描けていれば、実は最初の時点で情報のズレに気づいてすぐに修正できたかもしれません。また逆に、文字で書いておいたほうがよかったかもしれません。確認のミーティングを入れればよかったかもしれません。

 

また、プロジェクトでなくても、多くの職場で「マニュアル」が用意されていますが、マニュアルがあってもミスが多発したり、有効に機能していないケースがよくあります。

こうしたケースでは、マニュアルが「手順」だけ文字だけで書いてあったりして、伝わりやすい人を限定してしまっていることがほとんどです(リーダーや作った人が聴覚優位な人だと、その問題自体に気づきません)。そこで、例えば作業のイメージ図を加える、新人さんに簡単な講習をやる、などの対応をするだけでも、大幅にミスを減らすことができるのです。

 

仕事で起こる「認識のズレ」は情報の伝え手と受け手、どちらが悪いということでもないのですが、往々にして立場が弱いほうの責任にされてしまうことが多く、その原因について追求されることは滅多にありません

コミュニケーションの認識がズレる原因は、多くの場合、実は「伝え方」の選択にあるのです。

 

すぐに責任を追及するリーダーがダメなのは、こうしたコミュニケーションの改善ポイントに気づかず、誰かに責任をなすりつけることで終わってしまうからです。

責任を押し付けられたメンバーはモチベーションが下がり、職場やプロジェクトで実力を発揮できなくなるでしょう。また、責任をなすり付けるリーダーのプロジェクトでは、再び同じような問題が起こるでしょう。

 

我々は一つの現実に生きているかもしれませんが(それも宇宙論的には怪しいのですが)、一人一人は別の世界に生きていると思って、コミュニケーションをしてみるといいでしょう。

別のやり方を試してみると、予想以上に伝わって気持ちがいい、ということになるかもしれませんよ。

 

では、今回も記事が長くなったのでここまでとさせてください。

次回は「相手がどんな状況に生きているか」についてお話します。

 

Masayoshi Hashimoto

「フロントライン通信」編集長。業務経験は15年を超え、メディアサイトから数千万人規模の会員システムまで、10社で80件以上のプロジェクトのマネジメントを実施。2011年にスタートアップを立ち上げ、多くの人がプロジェクトをより成功できるためのツール「マンモスプロジェクト(Mammoth Project)」を開発。世界中の現場で戦うチームを応援することを人生の使命とする。

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2 Responses

  1. 2015/07/06

    […] …と、記事が長くなってしまったので、続きは次回に。 […]

  2. 2015/07/17

    […] さて、今回は「プロとしてのコミュニケーション」の3回目です。前2回では「相手と自分を知ること」、「相手が生きている世界を知ること」について書きました。 […]

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