「プロとしてのコミュニケーション」とは何か (1) – まず人を知る

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今回の記事も友人のリクエストです。

成功するプロジェクトと失敗するプロジェクトの違い」で、リーダーのコミュニケーション技術がプロジェクトの成否に大きく関わるという話をしました。では、そのコミュニケーション技術とは何か、というお話です。

 

たくさんのプロジェクトを見ていると、コミュニケーションの質が非常にバラバラであることに気が付きます。

あるリーダーはものすごく慎重かつ丁寧にコミュニケーションをして複雑なプロジェクトをミス一つなく回しているかと思うと、別のリーダーは姿勢の時点で間違っていて、メンバーの反感を買ったり状況を混乱させたりして無用なトラブルを発生させたりしています。

 

コミュニケーションは、プロジェクトの未然にトラブルを防ぐという意味で非常に重要な技術です。

プロジェクトというのは、一度「炎上」してしまうと正常な状態に戻すのにとても多くの労力と高度な技術を必要とします。

メンバーの健康や家庭への悪影響、追加の人件費、プロダクトの品質低下、企業としての信頼や評価など、失うものもたくさんあります。

これはまさに火事と同じで、プロジェクトでは消火作業よりも防災のほうが大事なのです(このことを理解している企業は残念ながら多くはありません)。

 

特に、ディレクターやプロデューサー、プロジェクトマネージャーと呼ばれる人々の仕事の多くの割合が調整や説明などにあることを考えると、「コミュニケーションによってトラブルを未然に防ぐ」ということがその人のプロジェクトマネジメントの腕を決める、と言っても過言ではありません。

 

しかし、コミュニケーションが上手い人に「なぜ上手いんですか?」と訊いてみても、大抵は「経験から」とか「プロとして当たり前でしょ?」みたいな答えしか返ってこないことが多いのです。スポーツの一流選手でも、自分の技術を明確に説明できる人が少ないのと同じです。

これはなぜなのか考えてみると、「プロとしてのコミュニケーション技術」はすごく学ぶ機会が少ないことに気づきます。コミュニケーション技術を言語化して教えられる機会が極めて少ないんですね。

営業研修を受けられる企業はたくさんあります。顧客対応の研修を受けられる企業もたくさんあります。管理職(リーダーではなくマネージャー)の心得、みたいな研修を受けられる企業もたくさんあります。

 

しかし、プロジェクトのリーダーとして必要な「プロのコミュニケーション技術」を学べる機会を提供している企業というのは極めて少ないのが現状です(少なくとも私が知っている例では、そうした教育ができている企業はほぼ皆無です)。

ある人が「プロとしてのコミュニケーション」ができるようになるには、個人の努力と感性、そして学ぶ機会が得られるかという運に大きく依存しているのが現実なのです。

 

しかし、それでは困ります。

仕事の成否に影響する重要な技術が個人の素質や運に頼っているようでは、組織としての仕事のクオリティを確保することができないからです。

 

ちょっと出典は忘れてしまったのですが、アメリカ軍では「戦術の天才と言われるような一流のリーダーは育てることができない、しかし軍を適切に動かせる二流のリーダーまでは教育で育てることができる」という思想を持って教育に力を入れているそうです。

だから、半世紀以上に渡って大規模な組織力を維持して世界中でスーパーパワーを維持できているのでしょう。個人の努力や感性、運に頼っていては約220万人の組織は動かせないからです。

 

そして、私も経験からこの教育の思想は正しいと思っています。実際に多くの人材を教育して、一人前に育てた経験があるからです。

 

そこで、今回は「プロとしてのコミュニケーションで気をつけるポイント」についてお伝えします。

 

彼を知り己を知れば百戦殆からず

知彼知己、百戰不殆(彼を知り己を知れば百戦殆うからず)」は、孫子の非常に有名な教えです。

日本では「敵を知り己を知れば百戦危うからず」としても知られていますが、これは仕事上のコミュニケーションでも有効な考え方です。

もちろん、一緒にプロジェクトをやるメンバーは仲間であって、敵ではありません。しかし、自分と相手を知って物事を進めるという意味では孫子の教えが示すことと同じなのです。

 

そして、相手を知ることも、自分を知ることも、「人を知る」という意味では同じです。人を理解することが、物事をうまく進めるには重要なことなのです。

 

しかし、プロジェクトではあまり相手をよく知らない状態でチームを組まなければならないことが一般的です。

友達のように、相性が良さそうな人を選んでじっくりと時間をかけて仲良くするという余裕は普通ありません。

 

つまり、非常に少ない時間で相手を理解することが重要なのです。時には初見で見極めなければなりません。

そんなことが可能なのか?

 

はい、一定の基準を持って相手を観察すればそれは可能です。

 

まずは「人」を知る

では、どうすれば相手を理解することができるのか?

重要なのは、下記の3つのポイントです。

  1. 何を大切にしているか(価値観)
  2. どの感性を使っているか(知覚)
  3. どんな状況で生きているか(立場や状況)

 

では、順番に解説しましょう。

 

1. 何を大切にしているか(価値観)

人は様々な価値観を持っていて、大切にしているものが違います。利害や価値観が衝突するのは、人それぞれ持っている「自分の正義」が違うからです。

相手にとって大事なものが何なのか、これを理解することができれば、人間関係をうまく調整することができます。

 

世の中には血液型占いや12星座占いなどのオカルトな方法もありますが、これらは相手を「こういう人」とレッテル貼りして自分のイメージに当てはめてしまう危険性があるので、オススメできません(西洋占星術や四柱推命などは学問レベルまでやるとそれなりに当たるのですが、まさか初対面で生年月日時を訊くわけにもいかないので、実用性には欠けます)。

全く偏見を持たずに人を見るのは難しいことですが、次の方法を使うと「すぐに使えて、相手を決めつけず、さらにコミュニケーションしながら理解を深めていく」ことができます。

 

・エゴグラム

・コーチングの4つのタイプ

 

エゴグラム

エゴグラムは、よく Facebook や Twitter などで「性格診断」アプリとして共有されていることがあるので、見かけた事がある人も多いかもしれません。「エゴグラム」でググるといろんな診断サイトが出てきますが、重要なのは診断結果ではありません(自分を知るためにやってみるのはいいことです)。

 

エゴグラムは、「人の自我」がどんな状態なのかを下の5つの基準から判断します(Wikipediaより)。

CP(支配性)

厳しい心。自分の価値観を正しいものと信じて譲らず、責任を持って行動し、他人に批判的である。この部分が低いと、ルーズな性格になる。

NP(寛容性)

優しい心。愛情深く、他人を思いやって行動し、世話好きで保護的で親切である。この部分が低いと、冷淡な性格になる。

A(論理性)

論理的な心。現実を重視しており、知的で計算力が高く、聡明で頭脳明晰で合理的である。この部分が低いと、非合理的な性格になる。

FC(奔放性)

自由奔放な心。明るく好奇心旺盛でユーモアがあり、わがままで自己中心的である。この部分が低いと、閉鎖的で暗い性格になる。

AC(順応性)

協調的な心。他人からの評価を気にし、言いたいことを言わずに我慢してしまい、従順で遠慮がちである。この部分が低いと、マイペースな性格になる。

 

つまり、「◯◯だから△△するべき」とよく言う人はA(論理性)やCP(支配性)が強い人なので、まずは意見を主張するよりも話を聞いて回答を返そうとか、そういう風に判断するわけです。

誰でも相性が良い人悪い人がいると思いますが、それはこれらの特性のマッチングが背景にあることがほとんどです。

多くの人は「自分が話したい話し方」で話しますが、それでうまく通じる相手は最初から相性がいいので、相性が良くない人とのコミュニケーションでこうした理解の仕方が役に立ちます。

 

ちなみに、このエゴグラムは「交流分析」という学問分野が背景にありますが、さらに関心がある方は本など買って読んでみると、さらにコミュニケーション技術の向上に役に立ちますよ(そのうちここでも書きたいと思います)。

 

コーチングの4つのタイプ

これはマネージャー研修や営業研修などで知っている人も多いでしょう。

コーチングの4つのタイプとは、下記のタイプで人の行動傾向を把握します(コーチング ウェイブより)。

コントローラーの人は、行動的で、自分が思った通りに物事を進めることを好みます。またプロセスよりも結果や成果を重視します。一方、他人から指示されることを何よりも嫌いますし、自分は人をコントロールしたいのですが、他人からコントロールされることを嫌います。

プロモーターの人は、自分のオリジナルなアイディアを大切にします。また人と活気のあることをするのが好きです。一方、一つのことを達成したり、持続したりするのは苦手。何より大切にするのが「影響」です。周りの人からの反応によって、自分が相手に影響を与えているかの判断材料にします。

サポーターの人は、人を援助することを好み、協力関係を大事にします。また周囲の人の気持ちに敏感で気配りにたけています。ただし、周りとの関係や合意をとても重視しているので、仕事を丸投げすると孤立感や不安感から行動が止まってしまいます。

アナライザーの人は、行動の前に多くの情報を集め、分析し、計画を立てます。最も大切なのは、「正確であること」のため、じっくりと考えて行動することを好みます。無理に行動をせかしたり、答えを求めたりすると、アナライザーの動きを止めてしまいます。

例えば、同じ物事を話すのでも、コントローラーが強い人には結論から話して、アナライザーが強い人にはデータから話す、とそういう感じです。

コーチングのタイプ分けはミーティングや営業で有効な判断基準ですが、資料作りでも有効な考え方です。例えば、プロモーターが強い人が見る資料の場合は、提案内容のワクワク感を強調して、サポーターが強い人の場合はこちらがグイグイ引っ張る方向にするわけです。

このタイプ分けで1点注意が必要なのは、ある人がこれらのタイプどれか1つだけに当てはまるわけではなく、ほとんどの人が全てのタイプを持っていて、その中で強く現れる部分とそうでない部分がある、ということです(そういう意味では、「タイプ」というよりも「傾向の強さ」と理解したほうが適切かもしれません)。

 

エゴグラムやコーチングのタイプ分けが仕事を進める上で有効なのは、相手の情報量が少ない状況でもすぐに使える上に、「レッテル貼り」をしなくていいところです。

よく、「あいつは使える」「使えない」とか「あいつはデキる」「デキない」といったレッテル貼りをするマネージャーがいますが、そのセリフ自体、個性の多様性を理解しておらずリーダーとして人を見る目がないことを示しています。

エゴグラムやコーチングのタイプ分けは「生まれつきの性格」を見るためのものではありません。また実際に置かれた立場や経験で変わっていきますし、相手について詳しく知れば知るほど、理解を深める助けになるのです。

 

商談やチーム立ち上げのときに、誰でも「あ、この人ニガテだな」と思うことは普通にあると思いますが、それは自分と違う個性を持っている貴重な人材だと思って敬意を持って接していれば、チームが危機に瀕した時に意外な助けになってくれたりもします。

似た性格の人が集まった同質性の高いチームは推進力が高い反面、想定外の事態の対応に弱く、間違った判断にも突き進みやすいものです。

自分との相性の良し悪しや好き嫌いでメンバーを選ぶリーダーは、自分以上の力を発揮できるチームを作ることができません。

 

また、仕事の出会いというのは「測り知れない縁の力」が働いていたりもするのです。

長く仕事をしていると、「相性悪いなー、やりづらいなー」と思っていた人とどうにか関係を作って仕事をした後に、その相手が自分の窮地を救ってくれたり、チャンスを広げてくれるきっかけを作ってくれたりすることを経験するものです。

 

そして、一つのプロジェクトでも、単純な好き嫌いで人を判断するのではなく多様性を理解して縁を大切にすると、チームがまるで生き物のように有機的かつ効果的に動くようになるのです。

 

…と、記事が長くなってしまったので、続きは次回に。

 

Masayoshi Hashimoto

「フロントライン通信」編集長。業務経験は15年を超え、メディアサイトから数千万人規模の会員システムまで、10社で80件以上のプロジェクトのマネジメントを実施。2011年にスタートアップを立ち上げ、多くの人がプロジェクトをより成功できるためのツール「マンモスプロジェクト(Mammoth Project)」を開発。世界中の現場で戦うチームを応援することを人生の使命とする。

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2 Responses

  1. 2015/07/06

    […] 前回の記事では「プロとしてのコミュニケーション技術」として、まず相手がどんな価値観を持っているかを考えながら関係を作っていきましょう、という話をしました。 […]

  2. 2015/07/17

    […] さて、今回は「プロとしてのコミュニケーション」の3回目です。前2回では「相手と自分を知ること」、「相手が生きている世界を知ること」について書きました。 […]

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